熊さとの戯言

自分の体験などを雑記帳・備忘録として

オーガ・バスターズ 第64話

第64話 深き闇の心

 

ある都市の高層ビル

その最上階のお洒落な高級レストラン

 

貸し切りで、鬼哭院御前と知花鬼刕華で、夜景をバックにして食事していた

 

メニューは、”鬼”に合わせた料理である

自然食品に、単純な味付けをした、ダイエットに向いてそうなものだが

盛り付けは、人に出すのと変わらない

 

鬼哭院御前は、いつもの羽織袴姿でなく、蝶ネクタイ、ウイングカラーシャツを着こなした、タキシード姿に

髪型は、いつもの、センタ分けしたセミロングのストレートでなく、オールバックをしている

 

知花鬼刕華も、カジュアルドレス、控えめな装飾品を着こなし

髪型もいつもの、ポニーテールでなく、編み込みアップ・スタイルの髪型をしている

 

鬼刕華、頭を垂れ

「御前様、このような素敵なレストランでのご招待、ありがとうございます」

 

御前、ちょっと恥ずかしそうに

「いえ、私の方こそ感謝していますよ」

「こうして、女性と食事」

「いや、デートって、言うものをしてみたかったものですから」

 

鬼刕華、笑みを浮かべながら

「御前様は、長い間”公務”に携わって、こういったプライベートな事が出来なかったですからね」

 

御前

「そう言ってくれると、心の荷が降りますよ」

「この度の、西洋の鬼の件、お疲れ様です」

鬼刕華

「ちょうど、時間が空いていましたので・・・」

「あちらの始祖、聞き分けが良かったから助かりました」

 

御前

「結果良ければ、全て良しです」

「どうしたかは、聞かないことにしますよ」

鬼刕華、苦笑い

「・・・・・」

その後、すました面持ちで

「今回の温泉旅行は、どうでした?」

 

御前、感慨深く

平安時代以降、温泉など行かなかったので」

「昔に比べ、風景、施設等は随分変わりましたが」

「温泉は、昔のまま良い湯でした」

「よく、小さな”月の御前”を連れて、温泉に行きました」

「懐かしいです・・・・」

鬼刕華

「そう言えば、月の御前様とは、大分、歳が離れていたのですね」

 

御前

「え~18も離れていましたからね」

「あの頃の月の御前は、素直で可愛い弟でした」

鬼刕華

「今は?」

 

御前

「今でも、可愛い弟ですよ」

「少々、やんちゃですが」

鬼刕華

「日の御前様にしてみれば、確かに可愛い弟さんですね」

「そういえば、”月の御前様”の気配がありませんが、どうされました」

 

御前

「月の御前、私が自身の兄だと知った途端」

「急に汐らしくなって、私への当たりも、ほぼ無くなり、ある程度の事も、聞いてくれるようになりました」

「暫く様子をみましたが、演技ではないと分かり、世間に迷惑をかけないだろうと判断」

「人でなく、代用食品を食べる事を条件に、お互いの身体を分離しました」

 

鬼刕華

「御前様が、そう判断しなさったのなら、何も言う事はありません」

「御前様が、お子様の時代、よく月の御前様が勝手に分離して逃げようとした事を思い出しました」

 

御前

「面目ありません」

「分離しても、身体的共有があったせいか、すぐに見つける事は出来たのが幸いでしたよ」

 

鬼刕華

「そうでしたね、お陰で直ぐに捕まえる事が出来ましたから」

「そう言えば」

「よく長い間、日の御前様が、月の御前様の兄だと言うことを隠せましたね」

 

御前

「流石に、弟もそこまで、鈍くありませんよ」

「何度も私に追及していましたから」

「その度に、私は誤魔化してましたよ」

 

鬼刕華

「貴方も、相当な意地悪をなさるのですね」

御前

「鬼刕華殿も、人の事言えませんよ」

「貴女の思惑をなかなか教えないからね」

 

鬼刕華

「それでしたら、御前様は見抜いてるでしょう」

 

御前

「やはり、貴女は相当な意地悪をするのですね」

「・・・・・」

「良いでしょう、月の御前もいないことだし」

「はじめに言いますが、貴女の思惑が例え”人の世を滅ぼす”と言っても、全く驚きもしませんよ」

 

鬼刕華、ここで、ピクッとする

「・・・・・」

 

御前、続けて言葉を続ける

「鬼刕華殿にかなう者など、この地球上にはいない」

「もし、”人の世を滅ぼす”と言う思惑があるなら、とっくに実行し、今の地球に、人はいないでしょう」

 

鬼刕華

「御前様、それは、買い被りと言うものです」

「私にそんな力など、ありません」

 

御前

「謙遜なされるな、鬼刕華殿」

「過去に、米軍の1つの艦隊を、一人で滅ぼしているではありませんか」

 

鬼刕華

「それは、終戦直前の話でしょう」

「今の進んだ兵器では、流石に私でも無理ですよ」

「・・・・・」

「それに、そう言う”日の御前様”も、相当です」

「私を、致命傷に負わす事が出きるのですから」

 

御前

「貴女は、本来優しい心の持ち主の為に、無意識に手加減してるのですよ」

 

鬼刕華

「御前様との稽古でも、本気で貴方を殺すつもりで実戦してるのですが・・・」

 

御前

「ハハハ、それくらい本気になって貰わないと、稽古した気にはなりませんよ」

「もし、怒りなどで、本気で戦うなら、私は一瞬でやられるでしょうね」

 

鬼刕華

「・・・・・」

 

御前

「少し、路線から外れましたね」

「まず、鬼刕華殿の心の中の洞察からしましょう」

 

「私が見るに、貴女の心の中は」

「まるで、漆黒の闇」

「怒りも嫉妬も強欲も執着もない」

「絶望さえない」

「何の動揺のない、唯々透き通った漆黒の闇」

 

「それを、敢えて短い言葉で言うなら」

「絶大なる虚無感と言おう」

 

鬼刕華、図星を突かれ、目を大きく見開き、じっと御前を見ていた

 

御前

「鬼となって長年生き抜き」

「他人の為に、尽くしていくうちに無敵になるほど、強くなりすぎ」

「そして、尽くしても尽くしても、周りは同じことに繰り返し」

「それさえ諦観してしまった」

「そして、唯々透き通った漆黒の闇、虚無感を積み重ねるだけ」

 

鬼刕華、神妙な面持ちで、聞いている

「・・・・・」

 

「今は、私の思惑と月の御前の思惑に手を貸すのは、その漆黒の闇を埋めているに過ぎない」

「鬼跋特務隊だけでなく、敵味方関係なく、多数の者に手を貸すのも同様の理由ですね」

「貴女は、それらを実行しても、決してその闇から解放されないのも解っている」

 

「敢えて悪役さえ、演じている」

「本質は優しい性格の為、自身がなかなか思い通りにならない」

「漆黒の闇に彩り描いているが如く」

「それを楽しんでるように見えます」

 

鬼刕華、眼を瞑り、御前の言葉に耳を傾けた

「・・・・・」

 

「ずっと悪役を演じ続けると、いつかは・・・・」

「もう、これ以上は良いでしょう」

「既に、貴女は、自身を救う手立ても構築されてますね」

「それが、本当の鬼刕華殿の思惑と推測しています」

 

鬼刕華、自身の心の中を見抜いた御前に、唯々頭を垂れていた

 

御前

「折角の楽しいディナーが」

「ずいぶんと辛気臭い話になってしまったですね」

鬼刕華、頭を上げ

「いえ、私が聞きたいと言いましたので」

「此方こそ、申し訳ありません」

「御前様、お気に召さないで下さい」

「それに、大体は、推測通りかも知れないですね」

 

御前

「そうですか」

「出過ぎた事を言ってしまったみたいですね」

 

鬼刕華

「そうでも、ありませんよ」

「結果を楽しみにして下さい」

 

御前

「鬼刕華殿、そうさせてもらいますよ」

「・・・・・」

「そういえば、MMT(現在貨幣理論)についての本を読みましたが」

「鬼刕華殿も読まれました?」

 

鬼刕華

「え~私も読みましたよ」

「結局は”民を大切にしなければならない”って事に行き着くのですがね・・・」

 

その後は

日の御前と鬼刕華の、お互いに興味のある「政治講談」に花を咲かせていた

 

そして、月の御前と日の御前の、鬼刕華から見た評価も話されていた

 

 

・・・・・

 

ある日の夕刻

色んな大手企業のビルが立ち並ぶ、ビジネス街

その一画にある、世界的商社・高層ビルの出入口前

高級車の後部座席に乗り込もうとする、ビジネススーツ(スカート)着た、知花鬼刕華

 

遠くから、何者かが、猛スピードで、鬼刕華に向かって走り

鬼刕華の頭をめがけ、飛び蹴りを入れる

 

鬼刕華、素でその足を掴み、そのまま投げ飛ばし、街路樹にぶつける

「とんだ挨拶だな、いったい何の用だ?」

「雄次」

街路樹でしゃがんでいる、黒服を着た雄次

「痛ててて・・・」

「やっぱり、奇襲は無理っすか」

 

雄次、再び立ち上がって、体術の構えをし

「母ちゃん、ちょっと俺と付き合ってくれっす」

鬼刕華、ため息をつき

「わかった・・・」

「ここでは、人に迷惑をかける」

「場所、変えるぞ」

雄次

「ありがとう、母ちゃん」

 

知花鬼刕華のビジネスでの秘書が心配そうに

「知花理事長、そろそろ、市長との懇談がありますが」

鬼刕華

「そうだったな・・・・」

「少し、待ってくれんか」

秘書

「は、はい」

ビルの中へ入って行く鬼刕華

暫くして、鬼刕華と、瓜二つの知花鬼刕華がビルから出てきた

秘書及び、周りの人たち、唖然

「え~~~~~」

雄次、ジト目で

(わ~~母ちゃん得意の”肉人形”っす)

 

鬼刕華

「私の影武者だ、こいつを連れて行ってくれ」

秘書、狼狽しながらも

「は、はい」

肉人形の鬼刕華

「ヨロシク、オネガイシマス」

心配になる秘書

「・・・・・」

高級車に、肉人形を後部座席にのせ、懇談先へ発車した

 

それを、見送る

本物の鬼刕華と雄次、何人かの社員

雄次

「あの~母ちゃん?」

鬼刕華

「なんだ、雄次」

雄次

「市長さんと会うっすよね?」

鬼刕華

「それがどうした」

雄次

「あんなん(肉人形で懇談)で良いっすか?」

鬼刕華

「たいしたことではないから、大丈夫だ」

雄次

「そうすか・・・」

鬼刕華

「屋上のヘリポートに行くぞ、ついて来い」

雄次

「う、うん」

 

 

つづく・・・・・